更年期女性の脂質異常、「治療不要」と「経過観察可」の正しい意味
ネット情報と患者さんの思い
インターネットでは「更年期の脂質異常は治療不要」といった情報を目にすることがあります。
実際に患者さんの多くは「できれば薬を飲みたくない」と考え、生活習慣で対応したいという気持ちを持っています。
更年期と脂質の変化
更年期(閉経前後)には女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、
LDLコレステロール上昇、HDLコレステロール低下、中性脂肪増加といった変化が起こりやすくなります。
これは動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることが報告されています
(Shufelt M, 2023).
「経過観察でよい」ケースもある
一方で、すべての更年期女性がすぐに薬物治療を必要とするわけではありません。
国内外の縦断研究では、更年期移行期に一時的な脂質の変動が起こるものの、
生活習慣の改善でコレステロール値が安定する人も多いことが示されています
(Anagnostis P, 2017;
Lobo RA, 2022).
特に以下の条件に当てはまる方では経過観察や生活習慣改善が第一選択となります。
- LDLコレステロールの上昇が軽度(140mg/dL未満など)
- 糖尿病や高血圧、喫煙などの危険因子がない
- 心筋梗塞や脳梗塞などの既往がない
- 体重や食事、運動習慣の改善が可能である
「治療が必要」なケース
一方で、次のような場合は無治療ではリスクが高く、薬物療法が推奨されます。
- LDLコレステロールが高値(160mg/dL以上)
- 糖尿病や慢性腎臓病を合併している
- 心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の既往がある
- 家族性高コレステロール血症が疑われる
大規模臨床試験では、スタチンなどの薬物治療により心血管イベントが有意に減少することが示されています (Collins R, 2023).
ガイドラインの立場
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年版)」では、
年齢や性別を問わず、心血管リスクに応じて治療方針を決定するとされています。
「更年期だから治療不要」とは書かれていません。
リスクが低ければ経過観察・生活習慣改善、
リスクが高ければ薬物治療を含めて積極的に管理、という考え方です。
(日本動脈硬化学会, 2022)
まとめ
- 更年期女性の脂質異常は珍しくなく、心血管リスク上昇につながる
- 軽度でリスクが低い場合は経過観察と生活習慣改善で十分なこともある
- 高リスクの場合は薬物治療が有効で安全性も確認されている
- 一律に「治療不要」とすることは危険であり、個々のリスクに応じた判断が必要
更年期の脂質異常は「放置してよい人」と「治療が必要な人」がいます。
自己判断せず、ぜひ主治医と相談しながら最適な方法を一緒に選びましょう。
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