更年期と骨粗しょう症:女性にとって大切な骨の健康
更年期と骨の関係
女性は閉経前後(おおよそ45〜55歳)にエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンは骨の新陳代謝をコントロールする重要なホルモンであり、その減少は骨吸収を亢進させ、骨量の低下(骨粗しょう症)を引き起こします。
日本女性の骨粗しょう症有病率は60歳代で約20%、70歳代では40%以上に達するとされており、更年期は骨粗しょう症の分岐点といえます。
骨粗しょう症のリスクと病的骨折
骨粗しょう症により骨がもろくなると、軽い転倒でも骨折を起こしやすくなります。特に注意が必要なのは以下の骨折です。
- 大腿骨近位部骨折:歩行能力の低下、要介護の原因に。
- 脊椎圧迫骨折:背中や腰の痛み、身長低下、猫背の原因に。
- 手首の骨折:日常生活の不便につながる。
骨折後の予後データ
骨粗しょう症による骨折は「寿命の分岐点」とも言われます。特に大腿骨近位部骨折は予後が著しく不良です。
- 国内報告の概数で1年死亡率はおよそ10〜15%、2年でおよそ20%。
- 海外メタ解析では同年代健常者の約2倍の死亡リスクとされます。
- 生存しても約半数が骨折前のADL(日常生活動作)まで回復しないとされます。

検査と診断
当院ではDXA(デキサ法)による骨密度測定を導入しています。腰椎や大腿骨で測定し、若年成人平均値(YAM)の70%未満であれば骨粗しょう症と診断されます。さらに血液検査で骨代謝マーカー(骨吸収・骨形成の指標)を確認することも可能です。
予防と治療
- 生活習慣の工夫
- バランスの良い食事(カルシウム・ビタミンD・ビタミンK)
- 適度な運動(ウォーキング、筋トレ、バランス訓練)
- 禁煙・節酒
- 薬物治療
- ビスホスホネート製剤
- SERM(選択的エストロゲン受容体調整薬)
- 活性型ビタミンD製剤
- 抗RANKL抗体(デノスマブ)など
- 更年期のホルモン補充療法(HRT)
HRTは更年期症状の改善だけでなく、骨量減少を抑える効果もあります。ただし、適応と副作用リスクを十分に考慮する必要があります。
まとめ
- 更年期は骨粗しょう症のリスクが急上昇する時期。
- 骨粗しょう症による病的骨折は死亡率や要介護リスクを高め、予後は決して良くない。
- 定期的な骨密度検査と生活習慣の見直し、必要に応じた薬物治療が骨折予防の鍵。
骨粗しょう症は「サイレントディジーズ(沈黙の病気)」とも呼ばれ、症状が出にくいまま進行します。
「骨折してから」ではなく「骨折する前に」予防を始めることが最も大切です。
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