◆ 糖尿病の正しい理解と治療の重要性~データが示す“早期対応”の力~
❚ 糖尿病は「血糖の異常」だけではありません
糖尿病は、血糖(血液中のブドウ糖)が慢性的に高くなる病気です。
日本では約1,000万人が糖尿病を抱え、さらに約1,000万人が予備群(境界型糖尿病)とされています(厚労省「令和元年 国民健康・栄養調査」)。
初期は無症状のまま進行し、以下のような命に関わる合併症を引き起こすリスクがあります:
- 脳卒中・心筋梗塞:動脈硬化の進行
- 網膜症:失明の原因に
- 腎症:透析導入の原因第1位
- 末梢神経障害:足の壊疽、切断の原因に
❚ 「糖尿病かもしれない」と言われたら
健診で「血糖が高め」と指摘されたり、「HbA1cが基準値を超えています」と言われて不安に感じる方は多いと思います。
実際に糖尿病かどうかは、以下のような複数の検査値をもとに判断されます:
検査項目 | 糖尿病型の基準値 |
---|---|
空腹時血糖 | 126mg/dL 以上 |
随時血糖 | 200mg/dL 以上(+症状があれば) |
HbA1c(JDS値) | 6.5% 以上 |
75gブドウ糖負荷試験(2時間値) | 200mg/dL 以上 |
上記のいずれかを満たし、別の日にも同様の結果が確認されれば、「糖尿病型」と診断されます。
ただし、一度だけの高値で即「糖尿病」と診断されるわけではありません。
脱水・食事・ストレス・感染などで一時的に上がることもあるため、再検査で確認されるのが一般的です。
❚ 境界型糖尿病(予備群)の段階での対策がカギ
空腹時血糖100~125mg/dL、HbA1c 5.6~6.4%の方は「糖尿病予備群」とされ、糖尿病発症のリスクが高い状態です。
予備群からの進行率は年間5~10%程度とされており、早期の生活改善で約半数が発症を回避できることが示されています(Diabetes Prevention Program(米国, 2002))。
❚ 血糖を下げると、どれだけリスクが減るのか?
英国の大規模研究(UKPDS)によると…
HbA1cを1%下げると:
- 糖尿病網膜症・腎症の発症:約35%減少
- 心筋梗塞のリスク:約14%減少
❚ よくあるご質問:「糖尿病は一生治らないの?」
糖尿病=一生治らないというのは誤解です。ただし「完治」ではなく、血糖値を正常に保ち続ける“寛解”の状態を目指すことが現実的です。
特に早期の2型糖尿病であれば、以下のような生活改善により、薬を使わずに血糖をコントロールできる方もいます:
- 適正体重の維持(BMI 22前後)
- 1日7,000〜10,000歩の運動習慣
- 食物繊維の多い食事・間食の見直し
- 節酒・禁煙・睡眠の改善
ただし自己判断で薬を中止すると、再悪化の危険性があります。
医師と相談しながら、段階的に調整することが大切です。
❚ 高齢者の血糖コントロール目標(JDS・日本老年医学会)
高齢者では、低血糖による転倒・認知症の進行が問題となるため、若年者とは異なる基準が設けられています。
状態 | 目標HbA1c(%) |
---|---|
元気で自立している | 7.0~8.0 |
軽度の認知症・ADLにやや制限 | 7.5~8.5 |
認知症やADLに支障あり | 8.0~8.5 |
※低血糖を避けるため、HbA1c 7.0%未満を無理に目指さないことが推奨されています。
❚ 治療の目的は「数字」ではなく「未来を守ること」
- 糖尿病治療の本質は、血糖値の数字を下げることだけでなく、脳・心臓・腎臓を守ることにあります。
- 患者さん一人ひとりの生活背景や年齢に応じて、現実的かつ安全な目標を一緒に考えることが重要です。
- 継続が何よりの治療です。あきらめずに取り組みましょう。
【参考文献・出典】
- 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 日本老年医学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」
- UKPDS(UK Prospective Diabetes Study)
- DPP:Diabetes Prevention Program, 2002
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