
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウィルスの再活性化によって発症する皮膚の病気です。子供のころに感染した水ぼうそう(水痘)のウィルスが治癒後も体内に潜伏し、加齢や免疫力の低下により再び活動を始めることで発症します。
帯状疱疹は日本では毎年60万人以上が発症するとされ、治療が難渋すると「帯状疱疹後神経痛」を来し、その後の治療に半年~1年以上かかることも珍しくありません。
2025年4月より帯状疱疹ワクチン接種の助成が開始となりました。日本では乾燥弱毒生ワクチン「ビケン」と組み換えワクチン「シングリックス」の2つから選択できるようになっていますが、患者さんから「どちらのワクチンが良いの?」との質問が多いため、それぞれのワクチンの特徴や費用、効果についてできるだけわかりやすくまとめてみました。
Q1:子供のころに水ぼうそうにかかったことがあるんだけど、帯状疱疹のワクチンは必要?
A1:水痘・帯状疱疹ウィルスに初めて感染した場合に水ぼうそう(水痘)になります。水ぼうそうの症状が治まった後もこのウィルスは感覚神経の神経節に何十年も潜み続け、過労やストレスなどで免疫力が低下すると再び活性化することがあります。この2度目のウィルスの活性化が帯状疱疹として現れるのです。成人の帯状疱疹の予防にはワクチンが有用とされます。
Q2:子供のころに水ぼうそうのワクチンを2回受けました。大人になってからもワクチンは必要なの?
A2:平成26年より小児に対する水痘ワクチンの定期接種が開始されました。その後の調査にて接種後11年経過してもワクチンによって獲得された「抗体」は維持されているというデータでしたが、抗体の効果は年齢とともに緩やかに減少していくことがわかっています。よって、小児期の水痘ワクチン接種を受けた方でも、50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されています。
Q3:帯状疱疹は周りの人にうつるの?
A3:小児期の水ぼうそう(水痘)は最初に上気道粘膜に感染し、その後増殖したウィルスが血中に移行することで全身性の水疱症状を呈します。患者の咳やくしゃみ等で周囲にウィルスが拡散する「空気感染(飛沫感染)」にて周囲の人へ感染が拡大することがあります。一方、帯状疱疹は通常「接触感染」とされます。皮膚の局所が感染巣であり水疱内にウィルスを含んでいます。健康な成人にうつることはまれですが、水痘に未感染の小児や免疫力の低下した方、妊婦さん等が破れた水疱に触れたりすると感染する場合があり注意が必要です。
Q4:帯状疱疹ワクチンが認知症の予防になるってテレビで見たけど?
2024年7月25日、イギリスのオックスフォード大学の研究チームが20万人以上を対象にした帯状疱疹ワクチンの効果について「Nature Medicine」に報告しました。報告の内容にワクチン(シングリックス)が帯状疱疹の発症を予防するだけではなく、明確な機序はわからないものの認知症の発症リスクを下げる可能性が示唆されました。
帯状疱疹ワクチンの種類
「ビケン」は生ワクチンとよばれるワクチンで、弱毒化(生体内で感染しない様に調整)された生きたウィルスを使用しています。もともと水ぼうそう(水痘)の予防に開発された日本初、世界初の水痘ワクチンで40年にわたり多くの小児に接種されてきましたが、成人の帯状疱疹にも予防効果があることがわかり2016年3月より「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」目的に使用が可能となりました。
一方「シングリックス」は不活化ワクチンと呼ばれ、水痘・帯状疱疹ウィルス成分の一部と免疫力を高める物質を組み合わせた「遺伝子組み換え型アジュバント添加サブユニットワクチン」に分類されます。生ワクチンではないため、免疫抑制状態にある方でも接種が可能なワクチンです。
ワクチンの費用とその効果
費用

各ワクチンの接種費用は「ビケン」が自費の場合約9,000円で4月からの助成対象者であれば自己負担が4,900円となります。接種は1回で済みます。
一方、「シングリックス」比較的高価なワクチンで自費接種の場合1回2,2000円、助成対象者で自己負担1回1,2000円で計2回の接種(計2,4000円)が必要です。
予防効果
「ビケン」の予防効果は60歳以上の平均が51%と報告されていますが、年齢とともに効果は減弱し50~59歳:69.8%、60~69歳:64%、70~79歳:41%、80歳以上では18%とされます。ワクチンの持続期間は約5年程度です。
一方「シングリックス」は50歳以上の予防効果が平均97.2%と高いうえに、加齢による予防効果の低下も緩やかで、50~59歳:96.6%、60~69歳:97.4%、70~79歳:91.3%、80歳以上でも91.4%と高い予防効果を認め、ワクチンの持続期間も10年以上とされます。
どちらのワクチンを選ぶか?
どちらのワクチンが「正解」ということはありませんが、以下の点を参考にワクチン選択をしていただければと思います。実際のところ定期接種助成対象者は65歳以上の方であり、当院へご相談いただく患者さんも70代以上のご高齢の方が多いため、費用的な問題がクリアできるのであれば個人的には「シングリックス」をおすすめすると説明しています。
- 予防効果の高さを重視→シングリックス
- 予防期間の長さを重視→シングリックス
- 費用をできるだけ抑えたい→ビケン
- 免疫低下、免疫抑制剤治療中→シングリックス
以下に日本ペインクリニック学会 「帯状疱疹ワクチン定期接種開始に向けての声明文」からの引用を記載しますのでご参照ください。その他、ワクチンに関してご不明な点があればいつでもご相談ください。

コメント