外来でよくあるご相談:
「コレステロールの薬(スタチン)って、認知症になりませんか?」
インターネットや口コミで不安が広がっていますが、現在の医学的エビデンスでは“スタチンが認知症リスクを上げる”根拠は乏しく、むしろ脳を守る方向に働く可能性が示されています。
結論:スタチンで認知症リスクが上がる、という証拠はありません
大規模研究やメタ解析では、スタチン使用と認知機能低下・認知症発症の関連は「悪化しない(少なくとも増やさない)」という結果が多く、 「認知症になるからやめる」という判断は医学的に支持されません。
- 「スタチン=認知症の原因」
- 「コレステロールを下げると脳が弱る」
- 「飲み続けると記憶力が落ちる」
- RCT(無作為化比較試験)では認知機能低下は支持されにくい
- 観察研究では認知症リスク低下を示す報告も多い
- 動脈硬化・脳梗塞を減らすことが脳の保護につながる
誤った知識が広まった「3つの原因」
① 症例報告(まれな例)が独り歩きした
一部の患者さんで、服薬開始後に一時的な物忘れ・混乱が報告されたことがあります。 ただし症例報告は因果関係を証明するものではなく、頻度も高くありません。
② 2012年のFDA注意喚起が「誤解」された
FDAは2012年、スタチンのラベルに「一般に重篤ではなく、可逆的(中止で改善しうる)な認知面の副作用報告」を追記しました。 しかし、この一部だけが切り取られ、「スタチン=認知症」という誤情報に変換されてしまいました。
③ 「脳にコレステロールが必要」→「下げると脳に悪い」という短絡
脳にはコレステロールが重要です。ただし、血中コレステロールと脳内コレステロールは同じではなく、 脳内は別の仕組みで調節されています。よって「血中を下げる=脳が壊れる」という単純な話にはなりません。
むしろ注目:スタチンは“認知症予防”に関与する可能性
① 動脈硬化を抑えて「脳梗塞」を減らす
認知症には、アルツハイマー病だけでなく血管性認知症があります。 LDLコレステロール高値や動脈硬化は、脳梗塞・微小梗塞のリスクを上げ、結果として認知機能低下につながります。 スタチンはLDLを下げ、動脈硬化を抑えることで脳血管イベントを減らし、脳を守る方向に働きます。
② 抗炎症作用など「血管を守る多面的作用」
スタチンには脂質低下以外にも、炎症を抑える・血管内皮機能を改善するなどの作用が知られています。 慢性炎症や血管障害は認知症の背景因子にもなるため、理論上も“脳保護”と整合します。
③ 観察研究・メタ解析では「認知症リスク低下」を示す報告が多数
大規模な観察研究を統合したメタ解析では、スタチン使用者のほうが認知症リスクが低いという結果が報告されています。 もちろん観察研究には限界がありますが、「少なくともリスクを上げる」という主張よりは、現在の総合的結論は反対方向です。
大事なポイント:
「スタチンが認知症を“必ず予防する”」と断言できる段階ではありません。
ただし、心血管リスクがある方にとっては、脳血管イベントを減らすこと自体が“将来の脳の健康”に直結します。
スタチンが怖い方へ:よくある質問(FAQ)
まとめ
- 「スタチンで認知症になる」という話は、症例報告や注意喚起の切り取りが原因で広まりやすい
- RCTや総合的エビデンスでは、認知症リスク増加は支持されにくい
- 動脈硬化・脳梗塞を減らすことが、結果として脳を守る(認知症予防に寄与する可能性)
- 不安があれば、自己判断で中止せず、用量や薬剤変更も含めて相談を
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。症状や治療方針は個別に異なるため、自己判断での中止・変更はせず、主治医にご相談ください。
参考文献(論文・公的情報)
- FDA Drug Safety Communication: Important safety label changes to cholesterol-lowering statin drugs(2012)
- Ott BR, et al. Do Statins Impair Cognition? Systematic Review and Meta-analysis of RCTs(2015)
- Swiger KJ, et al. Statins and cognition: systematic review and meta-analysis(2013)
- Goldstein LB, et al. Aggressive LDL-C Lowering and the Brain(AHA/ATVB, 2023)
- Westphal Filho FL, et al. Statin use and dementia risk: systematic review and updated meta-analysis(2025)


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